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#5 旅と鞄

 

今年の東京の秋は穏やかで好天に恵まれた暖かな日が続きました。
12月に入りようやく厚手のニットやコートを引っ張り出し
ワードローブのスタメン達も慌ただしく選手交代。
帰り道、ひんやりとした外気が襟元に入り込み首をうずめながら
澄んだ南の夜空にオリオン座を見つけると
今年もそろそろ終わりなんだなぁと実感します。

店舗にも遠方からお越しいただくお客様が少しずつ増えてきて
駅ではスーツケースを手に移動する人の姿も多く見かけるようになりました。
師走本来の賑やかな街の喧騒と街路樹のイルミネーションは
寒さを自然と和らげくれるように感じます。

 

 

先日、1年以上ぶりに飛行機に乗り久々の国内旅行に出かけました。
空港の待合ロビーで搭乗を待つ人
機内の手荷物棚に荷物をしまう人
仕事柄か、近くにいるけど見知らぬ人の鞄をついつい目で追ってしまいます。
この人が旅にこの鞄を選んだ理由は何だろう。
鞄は、どんな年月をその人と経てきたのだろう。

旅に出る前、現地で何をしよう?と想像を巡らせながら
「どの鞄を持っていこうか」としばし考えます。
今は便利な時代で財布とスマホさえあればきっとなんとかなるのだし
普段より身軽に、と毎度ささやかな夢を見ますが
実際はカメラや貴重品を持ち歩くため大荷物になりがちです。

列車や飛行機のチケットを何度も取り出しては時間や行き先を確認したり
海外旅行で「パスポート、どこにしまったっけ!?」と慌てふためいたり。
幾度旅をしようとも、こうした事は毎回必ず起こるので
昔から「旅の足元は履きなれた靴を」と言うように
鞄も使い慣れたものを出来るだけ選ぶようにしています。

 

 

今回旅の相棒に選んだのは、PENELOPE定番のAltman(アルトマン)
ストール、一眼レフ、タブレット端末、本など
宿泊先に着くまでの荷物をすべて一纏めにしまい込み、空港へと向かいました。
使いはじめて4年ほど経つだろうか。
共布のショルダーには所々色褪せた”アタリ”が見られますが
しなやかな厚織のリネンヘリンボーン生地は使い始めた頃よりも起毛感が出てきて
レザーの丸手のハンドルはどこか艶を増して愛らしい。

大容量だけれど細かな収納はなく、大きめの吊りポケットが一つあるのみ。
潔いほどシンプルで、だからこそ自由度が高く使い勝手が良いのだと感じます。
鞄の中を手持ちのいくつかのポーチで仕切り、なんとなくポジションを決めておけば
手を伸ばした時にさっと必要な荷物を取り出す事ができます。

 

 

晴天に恵まれた1時間少々のフライトの間
薄い雲の絨毯の下には所々冠雪している山々の尾根が見え
暖かな機内から鋼の壁の外側は信じられない寒さである事を想像します。
機体が着陸態勢に入り降下を始めると、光り輝く美しい水面が窓を照らしていました。
まだどこか現実味の無い気持ちと、まだ見ぬ地への高揚が徐々に重なり合っていき
機体は鈍い衝撃と共に地面に降り立ちました。

 

 

宿に着き見知らぬ部屋に足を踏み入れ、荷解きをしながら
室内を居心地の良い空間へとセットアップしていく時間は
移動の疲れと緊張を徐々にほぐしてくれるように思います。

今回は小ぶりの巾着型バッグのKate(ケイト)も持参しました。
メインのバッグ以外に、いつも必ずサブバッグをスーツケースに忍ばせるようにしています。
ホテルで朝食をとる時、身軽に食事に出かけたい時、
機内ですぐに使いたい物だけを入れておくのにもいいし、
長財布や折畳傘も入り、革紐を片側に伸ばせば肩掛けにすることも出来る。
今回はインバッグとして、充電器やカメラ周辺のギアを一纏めにしておくのにも役立ちました。

少し遅めの朝食を食べ、その日の気分で予定をたて昼頃にホテルを後にする。
久々の旅は気候にも美しい紅葉にも恵まれて、とてものんびりとした数日間でした。

 

 

以前、5年間使っていた愛着のあるスーツケースが旅から戻ったら壊れてしまいました。
訪れた場所も、そこで出会った人々の顔も、重量制限ぎりぎりまで詰めて持ち帰った美味しい思い出も
中身が空でもまだ全てがそこに在るように思い、名残惜しい気持ちで手放したことがあります。

旅から戻り夜が明ければ、また日常が始まります。
鞄の中身も少し減って、普段通りに戻りますが
観光の中心から少し離れた場所で、偶然見つけることが出来た楽しさや美しさ。
美味しい料理をいただきながら現地の人と共有した一期一会の時間。
旅をする度に芽生える一言で表現し難いこうした感謝に溢れた感情と
現地を歩きながら感じた空気と、風景の匂いは全て
いつも共に旅した鞄の中に宿っているような気がしています。

 

 

動画・写真・文 / Nao Watanabe
©2021 ateliers PENELOPE