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#4 愛称が、愛着に変わっていく話 – 後編

 

今、この記事を書いているデスクの上を見渡してみても
どんなに細々としたものにも名前が存在していることに改めてはっとします。

普段は深くその意味について考えることもなく
書いたり、触れたり、呼んだりしている様々な名前は
人間が意思疎通を図るための記号的な役割ともいえますが
例えば毎日家や職場で使うお気に入りの ”マグカップ” は
釉薬の艶が落ち着いて、少し茶渋もついていたりして、
いつの間にかただの ”マグカップ” ではなく ”私だけのマグカップ” になっている。
同じ文字の羅列でも、100あれば100通りの意味合いが
静かに息づいているのだから不思議です。
それは寒い朝にストーブを点け、じんわりと部屋が温まっていくのに似ていて
初めから存在していたわけではなく、時を経ながらだんだんと宿っていくものなのでしょう。

 

 

ペネロープでブランド立ち上げ当初から定番で作っているアイテムには
「◯◯◯バッグ」、「◯◯◯ショルダー」など
比較的どんなアイテムか想像しやすい名前がついていますが
ここ数年は言葉の響きであったり、愛着が持てる愛称なのかどうか
重視してネーミングをすることが主となってきています。
(もちろんアイディアのきっかけとなった意味合いが込められているものもあります。)

 

「意味や用途を限定してしまうと、常にそれに囚われて可能性を狭めてしまう気がするから」

 

とデザイナーの唐澤は言います。

 

 

昨年発売したトートバッグ “Cecil(セシル)” シリーズの名前の由来は
サンプル製作をしながら聴いていたジャズシンガーの名前と
大好きな松任谷由実さんの曲「セシル週末」の歌詞に登場する皮肉なかわいい女性
それぞれ自身が好きで心に留めていたイメージが
バッグのフォルムのイメージと重なりネーミングしたのだとか。

 

 

唐澤自身5年以上愛用しており、すっかりPENELOPEの定番アイテムの一つとなった
オリジナル厚織のオックスフォード生地を使用した “Mira(ミラ)”
そういえば、なぜ “Mira(ミラ)” という愛称になったのか、この機会に尋ねてみました。

 
「25周年の記念冊子の中にも似たような事を書いたのだけれど
 不思議なことに、偶然閃いてアイディアが自然と降りてくることが時々あって。
 材料を前にして頭を捻りながら、苦しんで生み出したデザインではなくて
 気づいたら形になっていた、 “Mira(ミラ)” もそんなデザインのうちの一つ。

 はっきりとした理由は覚えていないのだけど
 ネーミングも直感で中性的な女性のイメージが合うなと思って。
 Cecil(セシル)と同じで、自分の中のイメージの累積から自然に “Mira(ミラ)” がいい、と決めたのかな。」

(「Mira」は伊語で「羨望」、くじら座の恒星、地名、人名など様々な意味を持っています。)

 

 

話はブランド名の由来にも繋がっていきます。

友人と二人、東京の上目黒に初めてのアトリエを借り
屋号を決めようとヒントを探して、沢山のCDの山の中から曲名を読み上げていた時
当時ポップなカバーアレンジが気に入りよく聴いていたという
フランスの音楽グループ、ANTENA(アンテナ)のベストアルバムの中に
ジョルジュ・ブラッサンスのカバー曲 「PENELOPE(ペネロープ)」 の文字を見つけたのです。

「PENELOPE(ペネロープ)」はギリシャ神話「オデュッセイア」に登場する女神の名前に由来しています。
(正確には「ペーネロペー」「ペーネロペイア」という発音になるようです。)

そして当時20代後半だった唐澤の世代が「ペネロープ」と聞いてイメージするのは
イギリスの人形劇による特撮テレビ番組「サンダーバード」に登場する女性キャラクター、
ピンク色のオープンカーに乗ったお洒落なレディ・ペネロープ。

それぞれの意味は後付けになりますが
直感で選んだ愛称から自然に繋がったいずれのイメージにも
時を経て愛着を感じているのだそうです。

 

 

何かを「好き」「これだ」と心に決める時
それに対して予め意味や理由を知らないうちに求めていたような気がします。

主演俳優も知らずにタイトルに惹かれて見始めた映画
旅先で地図に頼らず歩いていているうちに偶然に訪れた店

「理由はわからないけど、心地いいな」という感覚は
時に一生ものの出会いに繋がることもあります。

ルーツや背景を知るのはとても重要なことですし
きちんとカテゴライズされているほうが、探しやすい。
でもそれはあくまで入り口と捉えて
その「モノ」に出会った時、愛称や佇まいに “なんとなく” 縁を感じたのならば
直感に任せて、自分から扉を開けて迎え入れてみる。
ふとした時に、それが何処から来てどんな思いが込められたものなのか深く掘り下げていってみると
自身が愛着を感じているに様々な物事は、
不思議とみんな点と点で繋がっていたりするな、と思うのです。

 

 

Key Item
ANTENA(アンテナ)*
ベストアルバム「L’Alphabet Du Plaisir」より「PENELOPE」
*”イザベル・アンテナを中心としたフランスの音楽グループ”
出典:Wikipedia

 

<この記事の前編は #3 でお読み頂けます。>

 

動画・写真・文 / Nao Watanabe
©2021 ateliers PENELOPE