JOURNAL

JOURNAL - Éléphants > #1「新しい風景と、変わらずに在り続けるもの – 前編」

#1「新しい風景と、変わらずに在り続けるもの – 前編」

 

厳しい残暑も終わり、ようやく秋の気配が漂う少し遅めの朝。
大通りの喧騒から少し離れたビルの一室の白い扉を開けると
天高のエントランスに響く心地よい音楽に出迎えられます。

ウェアブランド「Bnjour biqui Bonjour(ボンジュールビキボンジュール)」の立ち上げを機に
アトリエペネロープの中目黒・東山のショップ兼アトリエを離れ
デザイナーの唐澤が新たに構えた元麻布のアトリエの大きな天窓からは
この日も柔らかな午前の光が射し込み、六本木ヒルズが顔を覗かせていました。

 

 

ハンドドリップで淹れたコーヒーの馨りが部屋中に広がり
バルコニーでは心地よさそうに風に揺れる植物たち。
昔から変わることのない朝のルーティンから徐々に作業に取り掛かっていきます。

 

 

 

メゾネットタイプのフロアの2F
一番日当たりのいい場所に作業スペースがあり
製作に欠かせない工業用ミシン
アイロンがけが大好きな唐澤がこだわって選んだというタンク付きのスチームアイロン
試作中のウェアのトワルがかけられたトルソーが見えます。

 

 

手前の作業台の上では
なにやら次のアイディアのイメージの断片たちが産声を上げ始めたところのようで
息を吹き込まれる前の裁断途中の生地や
くるくる丸まったパターン用紙と共に
裁断鋏、スケールなどのツールが無造作に置かれていました。
どれも一見散らかっているように見えて、それぞれあるべき場所に収まっている
不思議とそんな印象を覚えます。

 

 

「唐澤さんの作業場って、すごく整理されているわけでもないし、雑然としてるけど
全然嫌じゃなくてむしろ全てがまとまっている感じがする。
でもそれが心地いいから不思議ですよね。」

と、たずねると

「自分の本当に好きなものしか置いてないからじゃないかな。」

次に聞く曲をどれにしようかとCDを選びながら、少しいたずらっぽく答えます。

 

 

以前は東山オフィスの3階にあったアトリエで
学生時代から使っているという職業用ミシンを踏みサンプルを縫う様子や
手描きのデザイン画を真剣に描く姿を間近で見てきましたが
近頃は突然サプライズのように披露されるサンプルを見るのが楽しみになってきています。

今回も「お?」と目を引く新しいバッグのサンプルが
作業スペースの奥のスツールにさりげなく置かれていました。

「これ、なんですか?栗ですか?」

と聞くと

「違うの、カカオなのよ〜」と…

美味しいチョコレートでも食べたのだろうか。
それともカカオの産地のドキュメンタリーでも見たのだろうか。
と、色々想像を巡らせましたがここはあえて聞かないことに。

 

 

新しい風景や感動を求めて旅に出ることが出来るのは
変わらずに帰ってこられる場所があるからこそだと
旅好きな私は常々思っています。
ゆったりお酒を飲みながら、現地で見た情景や人々との触れ合いを思い出しては反芻し
それらが日常を過ごすうちに自身の一部となり、少しだけ新しい自分が形成されいく。
旅を終えたあとは、いつもそんな感覚を覚えます。
(気軽に何処へでも出かけられる日々が早く戻ってきてほしいものです。)

唐澤が長年ものづくりを続け、日々新しい挑戦と向き合い続けてきた中で
時には難しい決断や人知れず沢山の失敗の積み重ねもあったはずです。
それでも常に前向きに、自身の直感とひらめきを信じて
一歩一歩また踏み出すことが出来る、たくましさの芯には
自身のライフスタイルの中に一貫して変わらない
“帰ってこられる愛すべき場所”を築き
その空気の中で日々呼吸をしているからでなのではないでしょうか。

 

 

 

<この記事の後編は #2 でお読みいただけます。>

 

動画・写真・文 / Nao Watanabe

©2021 ateliers PENELOPE