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#2 新しい風景と、変わらずに在り続けるもの – 後編

 

唐澤がバッグ作りを始めたきっかけは
高速道路を車で走っていたときに見かけた
米軍トラックの色あせた幌の風合いに惹かれ
この素材で何かを作りたいという強い気持ちと
元々インテリアが好きだったことと、縫い物が好きだったこと
それらが偶然に結びついた結果だったと言います。

ペネロープのバッグのデザインは
綿密に設計して形に合う生地を選ぶのではなくて
生地を選び色や加工を仕込むところからすべてが始まります。

置いたときにインテリアのように空間に馴染む佇まい
何より一番に素材が活きる形であるということは
唐澤がバッグをデザインする上で大切にしている原点です。
私が見てきたのは長い年月の半分ほどの時間なのですが
その時々のカラーやスパイスが加わることはあっても
大元の軸というのは全くぶれていないように思います。

 

 

自身の中にあるイメージと融合させながら
切って縫って組み合わせて、たたき台となるサンプルが立体的に形作られていきます。
その様子を見ていると、子供の頃に紙粘土で工作していた感覚がふと呼び起こされるようです。

イマジネーションを頭の中で膨らませることが出来ても
それを実際に布や革などの限られた材料に落とし込み
オリジナリティある形に持っていくことがどれだけ大変で稀有なことか
私自身、生産管理や生地の仕入れやちょっとした縫製作業から検品まで
日々様々なものづくりの工程に関わる中で身に染みて感じるのですが
これだけ長い間、創作物を生み出し続けているというのに
唐澤のアイディアはまだまだ尽きることがないようです。

現在は並行してウェアの制作もしているため
バッグが終わったらウェア、ウェアが終わったらバッグ
2足の草鞋状態で頭の切り替えも以前より大変なはず。
でも、近頃はその刺激を楽しんでいるようにさえ感じられます。

 

 

最近聞いた音楽の話、気になったニュースの話、
合間に雑談も挟み、ころころと表情を変えながら
サンプル作りが進んでいきます。

生地にパターンを置き線を引く時、鋏を入れる時
いずれの瞬間も真剣な眼差しのときも
唐澤の口角はいつもちょっぴり上向きで
生地を触る手指は優しく、愛情が溢れているように感じます。

 

 

そして彼女の作るサンプルはいつも独特の丸みと風合いを帯びていて
量産では生み出せない、どこか生き物めいたところがあるのです。
以前、縫製工場の生産担当者も
「唐澤さんのサンプル、量産になるとなんだか微妙に雰囲気変わっちゃうんだよな〜。」
とこぼしていたことがありました。

 

 

この日は、ずっと探していたという写真集がちょうど届いたばかりで
作業前に嬉しそうに手にとって眺めていました。
またここから、何歩か先の新しいアイディアが生まれているのかもしれません。

日常に溶け込み、物を運び収納する道具として初めて機能するバッグ。
この先、実際に製品となってユーザーの皆様の手に届き
どんな旅をしていくのでしょう。

 

 

後日談:
ちなみに本記事(JOURNAL #1 ・ #2)で製作中だったサンプルは
マロンでもなくカカオでもなく、カブトムシに似ていたことから
“ビートル”と名付けられました。
この秋、新商品として発売をいたします。

 

<この記事の前編は #1 でお読みいただけます。>

 

動画・写真・文 / Nao Watanabe

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