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#7 素材に導かれて – 後編

 

新しく仕上がった生地を初めて見る瞬間は、毎度のことながらいつもワクワクします。

 

先日長年アパレルのデザイナーをしている友人と話していた時のこと。

「服も、鞄も、糸を紡いで織り上げてようやく1枚につながった生地をまた分解して、
パズルみたいにパーツを組み立てていく。よく考えたらなんだか不思議で果てしないよね。」

そんな話題になり、デザインの中で素材が占める比重の大きさを改めて考えていました。

 

 

もう少しサイズを小さくしたり、機能性を持たせたほうが実際の使い勝手は確かに良いのかもしれない。
けれど素材を細かく切り取りすぎずに、広い面で見せるからこその良さもあり
後者を選びあえて1サイズのみで展開している定番商品もあります。

 

オリジナルの生地を新たに仕込んで実際に製品化するまでには
数ヶ月から長ければ半年ほどの時間を要すこともあります。
新色を染める際にはビーカー出しと呼ばれる色出しの試作を行い
数パターンの候補の中から本番の色を決定していきます。

 

 

毎回300〜500mのロットで生地を染め加工をし
定番で長くリピートをし続けていく色もあれば、徐々に新しい色と代替りしていく色も。
同じ色味でも加工の方法によっては色が沈んで見えたり、逆に明るく見えたりすることもあります。
中には “バイオウォッシュ”という酵素を利用して生地を洗い表面を柔らかく仕上げる製法で
予め使い古されたようなヴィンテージ感ある風合いに仕上げることも。
洗い加工により生み出された布の表情こそ、シンプルに削ぎ落とされたデザインの主役といっても過言ではありません

 

 

長年扱っているオリジナル素材の一つに、先染めの帆布があります。
糸から染色され織り上がった生地は色褪せしづらく、
また経糸と緯糸の色の組み合わせによって生まれる絶妙なグラデーションを楽しむことが出来ます。
事前に織り上がりのシュミレーションはもちろん行いますが
糸色が重なった際にどのように響き合い、どんな色合いに仕上がるのか、実際に織り上がるまではわかりません。
このどこか実験的な要素も先染め生地の面白さです。

 

 

オリジナル生地の生産を依頼している岡山県倉敷の製織工場では
昔ながらの力織機(りきしょっき)を現在も大切にメンテナンスしながら、製織を続けられています。
1台の織機で生産できる生地は、1日50m。(50m=生機1反に相当します。)
織り上がった生地の布目には、空気が含まれたような特有の立体感が感じられ
洗い加工を施し布目が詰まることで、立ち感のある風合いに仕上がるのです。

 

年明けに、昨秋から準備を進めていた新しい先染め生地が届いたばかりです。
まだ寒さはしばらく続きそうですが、冬枯れの街路樹の枝々に目を向けると
少しずつではありますが季節の移ろいを感じる取ることが出来ます。
春待ちの蕾が膨らみはじめる頃に製品としてご紹介出来るよう、ただいま準備を進めているところです

 

 

<この記事の前編は #6 でお読み頂けます。>

 

動画・写真・文 / Nao Watanabe
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